"親業"は、アメリカの心理学者 トマス・ゴードン博士が1962年(62年前)に開発し、自ら講座を始めたコミュニケーションプログラムです。
正式名称は、Parent Effectiveness Training (親の役割を効果的に果たすための訓練)日本では"親業"と名付けられ、日本で親しまれて44年(2024年現在)が経ちました。
"親業"とは、良い親子関係を作ることを目的にした、親のための意識改革プログラムです。子供が育つ上で親がいかに関わるか、親の側に焦点を当てて子育てを見直すところに大きな特徴があります。子供を変えるのではなく、親が意識と言葉がけを変える。その結果として子供の自立や自己肯定感を育んでいきます。
その理念は、親子の間だけではなく、すべての人間関係に共通するということに基づき、教育、医療、介護、中学生・高校生の対人関係でも、幅広く活用されています。
60年以上経った今、少しも色褪せることなく、世界50ヶ国で500万人、日本では15万人がこの講座を学び、子育てや社会生活に役立てています。
"心理学を人々に贈った"と称される人物です。
理解しあえる親子になれる、親業訓練 3つの方法
親業には、親子関係を改善するための3つの方法があります。
それは「聞く」「話す」「対立を解く」ということ。
これだけ聞くとあたり前のことのように思えるかもしれません。でも、それぞれこのように言いかえられます。
「聞く」→「能動的な聞き方」
「話す」→「わたしメッセージ」
「対立を解く」→「勝負なし法」
これらはどのようなことなのでしょうか?順番にご紹介していきましょう。
1の方法「聞く」
子供が本音を話してくれる「能動的な聞き方」
「疲れたから学校に行きたくない」そのように子供が言ったときにどうしますか?
行かなければいけない理由を伝えて説得しますか、それとも行きなさいと命令しますか?その言葉には子供の本音が隠されているかもしれません。そんなときに気持ちを汲みとって話を聞くのが「能動的な聞き方」です。
「そうか、学校に行きたくないんだ。」「昨日マラソンしたから疲れたのかな?」「それはつらいね。」
子供の言葉を繰り返し、自分の言葉で言い換えて、気持ちを確認します。理解してもらえたと感じたら、子供も本心を話してくれます。
「うん。実は昨日、友達と嫌なことがあったから行きにくいんだよね。」
2の方法「話す」
けんかにならない自分の気持ちの伝え方「わたしメッセージ」
子供が夢中になって公園で遊んでいて、でも自分はもう帰って夕飯を作らなければいけないのに困ってしまった。
こんな時にあなたは無理をすることはありません。気持ちを伝えて自分を助けてください。でもどう伝えたら良いでしょうか?
「もう2時間も遊んでるよ。あと少しで暗くなるから危ないし帰るよ。」
これだと主語が「あなた」になっています。なんだか責められている気持ちになるし、親が困っていることも分かりません。「まだ明るいから平気平気。暗くなったらやめるから。」と返ってきそうです。
「そろそろご飯を作らないと。夕飯に間に合わなくなっちゃうから焦ってきたよ。」
こちらは主語が「わたし」になっている「わたしメッセージ」。子供を責めずに自分の正直な気持ちを伝えます。子供は親が困っていることが分かり、自分でどうすれば良いか考えるようになります。
「そうか、もっと遊びたいけど…じゃあ、最後に1回だけブランコやってから帰っても良い?」子供の方からこんな解決策も出るかもしれません。
3の方法「対立を解く」
お互いが納得のいく解決を対話で導き出す「勝負なし法」
親の意見を通して子供が我慢する、子供の意見を通して親が我慢する。子育てをしていると親子で意見が対立して、そんな場面があるかもしれません。
「勝負なし法」は、親も子もどちらも我慢しない、文字通り勝ち負けのない解決策を導き出す方法。しっかりとあなたとお子さんの気持ちを分けてコミュニケーションが取れるようになれば、そんな夢みたいなこともできるようになります。
例えば、リビングがおもちゃでゴチャゴチャになっていて、親はゆっくりくつろげなくて困っている場合。はたして解決策は「なまけ者の子供に片づけさせるぞ」という一択でしょうか?自分が困っていることを伝えたら、実は子供の気持ちは「いつも見えるところに置きたかったから」なんて場合もあります。あれ?お互いがやりたいことが共存できる方法がありそうですね。
そこで「勝負なし法」の出番です。リビングをきれいにする目的のために、お互いに良いと思う解決策を出し切って、どちらも納得のできることを決めます。「勝負なし法」では親が思いもよらない意見が出たりしてびっくりします。子供も自分が一緒に決めたことだから気分よく実行できるし、その後も自分で気をつけるようになります。
自分と子供の気持ちを明確に分ける「行動の四角形」
子育てでは、危険を伝えたり、しつけをしたり、教えて導かなければいけないことがたくさんありますよね。これらは年長者として行わなければいけないことです。
でも、それ以外の本当は子供自身がなんとかすべきことまで、親は自分のこととして抱えてしまいがちです。親は疲れてしまうし、子供は自分で考えて解決する機会をなくしてしまいます。
はたして、どんな言葉がけをするのが適切でしょうか?
親業の一番の特徴とも言える「行動の四角形」という考え方は、親と子のどちらかが穏やかでない気持ちを持ったとき、困っているのはどちらなのか明確に知るためのものです。図を用いて客観的に整理するので感情に左右されず、3つの方法の使いどころがはっきりわかります。どんな状況でも臨機応変に、あなた自身で考えて対処できるようになります。
今起きていること、自分の気持ち、子供の気持ち、を客観的に見て、3つの方法のどれを使うのか判断するためのものが行動の四角形なのです。
3つの方法を身につけるための、親業講座のご案内
日本の親業訓練協会
全国で行われる講座の情報は、親業訓練協会にお問い合わせください。
日本各地で約300人のインストラクターが活動しています。
法務省保護局「保護者のためのハンドブック」執筆協力
法務省保護局が発行する「保護者のためのハンドブック〜より良い親子関係を築くために〜」に、コミュニケーションで親子の「心のかけ橋」をかける具体的な方法として、親業訓練講座が紹介されています。